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「やり方を教えてください」が口ぐせになっていませんか

2026 6/22
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主体性・考える力
2026年6月22日
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あるメールのやり取りを見ました。

お客様が、ある会社のホームページから問い合わせをしていました。営業から、返信が届いていました。

「HPからのお問い合わせありがとうございます。弊社ではその内容はできません。また機会がありましたらお願いします」

これだけです。お客様は、困っているから問い合わせをしているのです。「できません」で終わられたら、何の解決にもなりません。

それでも、お客様は諦めずに、もう一度詳しく返信していました。「これがこれくらいで、こういう物です。だから、あなたの会社でできるスペックを教えてほしい」。困っているお客様が、できるだけ詳しく状況を伝えて、相手に協力をお願いしたメールです。

それに対する、営業からの返信を見て、私は呆れました。

「HPからのお問い合わせありがとうございます。私の会社はここまでの範囲できます。よろしくお願いします」

また、同じ書き出しでした。「HPからのお問い合わせありがとうございます」が、返信の返信に、また付いていました。内容は「ここまでの範囲できます」だけ。最初から、できる範囲を出していない。代替案も出していない。お客様が二度目に詳しく書いてくれた内容を、読んだ形跡もない。

これは、AIで書かれているわけですらありません。AIを使えば、もう少しマシな文章になります。人間が、考えることを放棄しているだけです。


目次

これは、特殊なミスではありません

この営業を個人攻撃したいわけではありません。なぜなら、これは、日本中で、毎日、繰り返されていることだからです。

日本ビジネスメール協会という団体が、2007年から18年連続で、ビジネスメールの実態調査を行っています。1,500人以上を対象にした、日本で唯一の継続調査です。

その調査で、「仕事で受け取って不快に感じたメール」の第1位が、何年も連続で同じです。2023年は「質問に答えていない」が42.88%、2024年は「必要な情報が足りない」。これが、日本のビジネスメールで、最も多発している不快の正体です。

つまり、あの営業のメールは、特殊な失敗ではない。日本のビジネスメールの典型例です。


道具はあります。使えば、こうはなりません

ここで、AIの話に入ります。

AIを使えば、あの営業のメールは、こうはなりません。「ご質問の内容、承知いたしました。お客様の状況ですと、弊社で対応できるのは○○の範囲です。△△の部分は対応が難しいのですが、代替案として□□をご提案できます。もしよろしければ、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか」。これくらいの文章は、AIに下書きを書かせれば、5分もかかりません。

下手な営業が書いたメールが、平均的なところまで引き上がります。お客様に失礼にならない、最低ラインに到達できます。平均以下の人が、AIを使えば、平均的になる。これは、AIの正しい使い方の一つです。


しかし、日本人はAIを使っていません

日本のAI個人利用率は、2024年度実績で26.7%(総務省「令和7年版情報通信白書」)。前年の9.1%から3倍に拡大しましたが、それでも、他国と比較すると低いままです。米国68.8%、ドイツ59.2%、中国81.2%。

業務での活用率も低い。マイクロソフトとLinkedInの国際調査によると、日本のナレッジワーカーのAI業務活用率は32%。これは、調査対象19カ国中で最下位です。世界平均は75%でした。

年代別の差も大きい。NRC日本リサーチセンターの2025年6月調査によると、20代のAI利用率は42%、60代は19%。2倍以上の差があります。中高年ほど、使っていません。


使わない理由は「使い方がわからない」

ここからが、本題です。

日本のAIを使わない理由の第1位は、「使い方がわからない」(4割超)。第2位は、「生活に必要ない」(4割近く)。これは、日本が他国比で最も高い割合でした。

「使い方がわからない」と言う人は、こう言っているのと同じです。「使い方を教えてもらえれば、使う」。つまり、誰かに教えてもらわないと、自分では試してみない。これが、いまの日本の姿です。


子供たちにも、同じ構造が現れています

OECDの2022年国際学習到達度調査(PISA)で、日本はOECD加盟37か国中、数学的リテラシー1位、読解力2位、科学的リテラシー1位という結果を出しました。学校教育は、確実に効果を出しています。

しかし、同じ調査で、もう一つのデータが出ています。国立教育政策研究所の分析によれば、日本の子供たちの「自律学習と自己効力感」の指標は、OECD加盟37カ国中34位。世界トップレベルの学力を持ちながら、「自分で考えて、自分で動く自信」は、最下位レベルです。

これは、子供たちが悪いわけではありません。日本そのものの体質です。「教えてもらえばできる」「学習環境は手厚い」「ただし、自分で動く自信はない」。子供にも、大人にも、同じ構造で現れています。


道具の良し悪しではなく、使い手の問題です

AIは、すでに世の中にある道具です。良いとか悪いとかの議論ではない。問題は、使い手です。

ここで、誤解されないように、はっきり言います。「AIを使えばいい」という単純な話ではありません。

AIに考えさせて、出てきたものをそのままコピペで送る人は、AIを使う前から、すでに「AIに使われる側」にいます。なぜなら、自分で考えていないから。

AIを使うということは、考えることを放棄することではありません。考える部分は、自分でやる。それを時短してはいけない。AIに任せていいのは、考えた後の整形です。様式を整える、表現を丁寧にする、誤字を直す。ここは、時短していい部分です。

つまり、こういうことです。「考えて時短しないで、AIを使ってください」。考える時間は時短してはいけない。整える時間は時短していい。


私自身の使い方

私自身、メールを書くとき、AIを使う時もあれば、使わない時もあります。ケースバイケースです。

決まっているのは、最初に下書きを書く、ということ。自分の頭で、何を伝えるかを書く。相手の求めている内容と合っているか、確かめる。内容に間違いがないか、確かめる。その後、必要に応じてAIを使います。様式を整える、丁寧な表現に直す。あるいは、下書きをそのまま送ることもあります。

下書きをAIに書かせることは、ありません。下書きは、自分で書きます。「相手のことを考えて、内容を確かめる」部分は、自分の頭でやる。これだけは、時短してはいけない。

あの営業のメールには、これがありませんでした。下書きを書いた形跡もない。相手の状況を考えた形跡もない。内容を確かめた形跡もない。ただ、定型文をコピペして、そのまま送った。これは、AIを使う前の問題です。


知識のある人ほど、AIを使いこなせます

ここで、もう一つ大事な話をします。

「AIを使えば誰でも同じ品質のものが作れる」というのは、嘘です。知識のある人ほど、AIを使いこなせます。なぜなら、知らないことは、聞けないからです。

AIに何を聞けばいいか、わからない人は、AIに正しい問いを投げられません。AIが出した答えが、正しいか間違っているか、判断できません。知識のある人は、自分が何を知らないかを知っています。だから、AIに正しく問えるし、出た答えを正しく判断できます。

「自分はベテランだから、AIなんか使わなくても書ける」と思っている人。「もう歳だから、AIは難しい」と思っている人。両方とも、自分が何を知らないかを、まだ知らないだけです。

便利な道具は、使うべきです。プライドや年齢を理由に使わない選択をしている人が、結果として、お客様に失礼なメールを送り続けています。


あの営業は、日本そのものを見せてくれただけ

あの営業のメールに、戻ります。私は、あの営業を批判するために、この記事を書いているのではありません。あの営業は、日本そのものの体質を、最も分かりやすい形で見せてくれただけです。

誰かに教えてもらった定型文を、そのまま送る。考えない。自分で試さない。お客様の状況に合わせない。便利な道具があっても、使い方を教えてもらえないと、使わない。

ビジネスメール協会が18年連続で「不快なメール第1位」を指摘し続けるのも、AI利用率が19カ国中最下位で「使い方がわからない」が4割を超えるのも、PISAで世界トップなのに自律学習の自信が34位なのも、根は同じです。「誰かに教えてもらわないと動けない」。日本のいくつもの数字が、そろって、それを示しています。


あなたの会社は、どちら側に立っていますか

学校で9年「自分で考える訓練」を積んだ世代が、これから毎年、あなたの会社に入ってきます。その時、あなたの会社は、どちら側に立っていますか。教えてもらわないと動けない側か。便利な道具を使いこなして、自分で動く側か。

「自分に自信があるから」「もう歳だから」と便利な道具を使わない人を、私は信用しません。道具は、使う人の問題です。そして、その使い方を決めるのは、誰かに教えてもらうことではありません。自分で試して、自分で考えて、自分で判断することです。

選ぶのは、あなたです。


出典

  • 一般社団法人日本ビジネスメール協会「ビジネスメール実態調査2023」(2023年6月発表、有効回答1,634)
  • 一般社団法人日本ビジネスメール協会「ビジネスメール実態調査2024」(2024年6月発表、有効回答1,498)
  • 総務省「令和7年版 情報通信白書」(2025年7月発表)
  • マイクロソフト×LinkedIn「Work Trend Index」(国際ナレッジワーカー調査、19カ国比較)
  • NRC日本リサーチセンター「デイリートラッキング 生成AI 2025年6月調査」
  • OECD PISA 2022調査結果/国立教育政策研究所
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