マーケティングで情報を発信しているのに、誰の目にも止まらない人がいます。
理由は、自分の都合を押し付けているからです。「うちの商品はこんなにすごい」「うちのサービスはこう便利」と、書き手が言いたいことを並べるだけ。読み手が何を気にしているか、何に困っているかは、関係なく書いている。これでは届きません。
都合を押し付けるのではなく、自分が気になったこと、改善したことを発信する。それに共感した人が、ファンになります。
発信の目的はさまざまなので一概には言えませんが、心の発信については、SNSから学べることが多いです。とくに、若い人のSNS。彼らは、整った大人の発信より、よほど考えています。
文法は崩れているし、語彙も若者言葉ばかり。立派な内容が書いてあるわけでもありません。それなのに、整った大人の文章を10本読むより、若い人の投稿1つの方が、心に残ることがあるんです。
理由はシンプルです。自分が体験したこと、自分が感じたことを、自分の言葉で書いているからです。
TikTokやインスタグラムで自分を発信している人たちを見ていると、よく分かります。フォロワーが何十万人いるインフルエンサーから、数百人しかいない普通の人まで、活躍している発信者には共通点があります。自分の体験を、そのまま出している。失敗したことも、迷ったことも、隠さずに見せている。だから、見る人の心に届くんです。
これは、SNSの大きな調査でも、はっきり傾向として出ています。
Z世代は、加工された発信を見抜きます
僕と私と株式会社というZ世代向けの調査会社が、興味深い数字を発表しています。
SNS上で「広告っぽい」と感じる投稿を見たとき、Z世代の43.4%が購買意欲が下がると答えました。一方、購買意欲が高まると答えたのは、わずか14.6%。3倍の差があります。
整えれば整えるほど、若い世代は離れていく。逆に、本人の体験や生の声には、近づいてくる。これがZ世代のリアルです。つまり、書き手が「こう書けば売れる」と整えれば整えるほど、読み手は遠ざかっていくということです。
BeReal.という現象
BeReal.という、変わったSNSがあります。
1日1回、突然通知が届く。その瞬間に、加工なし、フィルターなしの写真を撮って、友人と共有する。映えるための準備時間も、整える時間もありません。
このBeReal.の利用率には、強烈な世代差が出ています。SHIBUYA109 lab.の2025年調査によれば、Z世代の利用率は21.4%、26歳以上は1.0%。20倍以上の差です。
若い世代は、ありのままを共有する仕組みを、自分から選んでいます。整った世界を、わざわざ手放している。整えすぎたものに、疲れているのです。
SNS利用時間が、減り始めている
もう一つ、意外な事実があります。
Global Web Indexという調査会社のデータを、Financial Timesが2025年10月に報じました。世界のSNS利用時間は、2022年がピークだったというのです。
その後、減少に転じています。そして、最も大きく減少しているのは、10代と20代。デジタルネイティブと呼ばれてきた、まさにSNS世代です。「Z世代はスマホばかり見ている」というイメージとは、逆の現象が起きている。
理由として指摘されているのは、SNSが友人とつながる場から、暇つぶしの場に変わったと、若者自身が感じているということ。整いすぎたコンテンツ、企業の宣伝、インフルエンサーのPRに疲れて、より小さく、より閉じた、よりリアルな場所に移っているのです。
若い人がSNSに書いていること
SHIBUYA109 lab.の同じ調査で、Z世代がXに投稿する内容のトップ2はこうでした。1位が「自分の考え・近況」で52.8%、2位が「何かを体験した感想」で42.9%。
自分の頭で考えたことを、書いている。自分が体験したことを、書いている。
文法は整っていないかもしれない。語彙は若者言葉かもしれない。でも、書いているのは自分の考えと自分の体験です。これは、簡単に見えて、できない人がたくさんいます。
「自分の考え」を、書ける人と書けない人
文章を書こうとして、手が止まることがあります。「何を書けばいいんだろう」「これって伝わるかな」「正しいことを書かないと」「失礼にならないかな」。考えているうちに、自分が何を感じていたか、自分が何を言いたかったか、見えなくなる。
そうして書き上がるのは、無難で、整っていて、誰も傷つけないけれど、誰の心にも残らない文章です。
若い人のSNSは、これとは違います。「これ、いいよね」「なんか分かんないけど好き」「やばい、笑った」「これ、無理」。文法も語彙もぐちゃぐちゃですが、自分が今、何を感じているかを、そのまま書いている。正しいより、リアルを選んでいるのです。
「何となく好き」を、言葉にする
人それぞれ、見ているものが違います。同じ風景を見ても、何に心が動くかは違う。同じ言葉を聞いても、どう感じるかは違う。
でも、その「何に心が動いたか」を、ほとんどの人は言葉にできていません。「なんとなく、いいなと思った」「なんか、気になった」「うまく言えないけど、好き」と感じて、そこで止まってしまう。
そこから先、その「なんとなく」を、もう一歩、自分の言葉にしていくこと。「これは、こういうところが好きなんだ」「ここに、自分は心が動いたんだ」と、輪郭を作っていくこと。これができる人と、できない人がいます。
若い人のSNSが心に届くのは、若い人が、この「なんとなく」を、まだ言葉にしようとしているからです。完成していない。語彙も足りない。文法も整っていない。でも、自分の感覚を、自分の言葉にしようとしている。その途中経過が、画面に出ている。その途中経過が、心に届くのです。
年齢の話ではありません
ただし、若いから、できる、という話ではありません。年齢の問題ではないのです。
年を重ねても、「何となく好き」を言葉にできる人はいる。逆に、若くても、それができない人もいる。「いいね」「すごい」「やばい」だけで終わる人もいれば、これは自分にとってこういう意味があるんだ、と、もう一段深く言葉にできる人もいる。
これは、訓練の有無です。自分の感覚に、もう一歩近づく訓練。「なんとなく」で止めずに、もう一言、自分の言葉を足してみる訓練。これを日々やっている人は、年齢に関係なく、伝わる発信ができます。
LPを見すぎると、頭が侵食されます
世の中には、テンプレートが溢れています。LP(ランディングページ)のテンプレート、SNS投稿のテンプレート、メールのテンプレート、プレゼン資料のテンプレート。便利だから、みんな使う。
ただ、ここに罠があります。「売れるLP」を見て、「私もこう書かなきゃ」と考える。「成功している発信」を見て、「私もこう書かなきゃ」と考える。これを続けていると、その文章に慣れすぎて、頭が侵食されます。「正しい書き方」「売れる書き方」「型」に染まって、自分の言葉が出てこなくなる。
同じテンプレートを使っても、書く人によって結果が変わります。同じ枠の中に、自分の心を入れられる人と、入れられない人がいる。入れられる人の文章は、テンプレートに見えません。その人の言葉になっている。入れられない人の文章は、誰が書いても同じ、置き換え可能な言葉のまま終わる。
どこで差がつくか。自分が何を見ているか、何を感じているか、それを自分で分かっているかどうか。ここです。
若い人の発信が、これからもっと強くなる理由
学校教育が変わって、子供たちは「自分の意見を言う」「議論する」訓練を、9年間積んでいます。自分が何を考えているかを、自分の言葉で言う。その訓練を9年積んだ子供たちが、これから社会に出てきます。その子たちのSNSは、今の若い人のSNSよりも、もっと自分の考えが入った発信になります。
整っているかどうかは、あまり関係ありません。彼らは、自分の頭で考えたことを、自分の言葉で出してきます。
その時、何が起きるか。「自分の心を言葉にできる人」が、増えていく。その隣に、何も書けない人がいることになります。
訓練は、いつからでもできます
「もう大人だから、無理だ」と思った方がいるかもしれません。そんなことはありません。訓練は、いつからでもできます。
明日、見た風景の中で、心が動いた瞬間があります。その瞬間に、立ち止まって、「これは、なぜ心が動いたんだろう」と、自分に問うてみる。
答えは、すぐには出ません。「なんとなく、好きだから」で、最初は終わるかもしれない。でも、その「なんとなく」に、もう一言足してみる。「あの色が、好きだったかもしれない」「あの形が、目に止まったかもしれない」「あの音が、なつかしかったかもしれない」。これを、毎日、少しずつ。
そうすると、ある日、自分の感覚と、自分の言葉が、少しずつつながり始めます。
締めに、ひとつだけ
若い人のSNSを、子供っぽいと笑う人がいます。文法が崩れている、語彙が幼い、絵文字ばかり。
でも、その若い人は、自分の感覚を、自分の言葉にしようとしています。完成していなくても、それをやっている。それを笑う前に、自分はどうか、考えてみてください。
最後に、自分の感覚を、自分の言葉にしたのは、いつでしたか。「何となく好き」を、もう一歩、言葉にしたのは。それを思い出せないなら、若い人を笑う資格は、ないのかもしれません。笑うのではなく、その若さから、学べることがあります。
出典
- SHIBUYA109 lab.「Z世代のSNS利用最新動向2025」(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント、2025年8月発表)
- 僕と私と株式会社「Z世代の購買行動・SNS利用に関する調査」
- Global Web Index(GWI)調査(Financial Times 2025年10月報道「Time on social media peaked in 2022」)
- 総務省情報通信政策研究所「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」