独自性、と聞くと、気の利いた、鋭い意見を、思い浮かべるかもしれません。でも、いちばん強い独自性は、もっと別のところにあります。読み手に、「この人は、分かってくれている」と、思わせることです。
人は、自分のことを、分かってくれる人を、探しています。困っているときは、なおさらです。あなたの文章が、その人の悩みを、相手より先に、言い当てたとき。読み手は、はじめて、心を開きます。
悩んでいる人に、上から教えてはいけない
ひとつ、はっきり言います。悩んで検索している人は、教えてほしいのでは、ありません。分かってほしいんです。
考えてみてください。自分が落ち込んでいるとき、事情も知らない誰かに、「こうすべきだ」と、上から言われたら、どうですか。たぶん、聞く気には、なれません。たとえ、正しくても、です。心が弱っているときに欲しいのは、正解ではなく、「分かるよ」の一言のほうです。
文章も、同じです。読み手の悩みを、すっ飛ばして、いきなり答えや指示から入る——すると、どんなに中身が正しくても、相手は、すっと引きます。まず、分かること。教えるのは、そのあとです。この順番だけは、逆にしないでください。
人が欲しいのは、商品ではなく、その先
分かる、というのは、相手の本当の望みを、見抜くことです。
『ドリルを売るには穴を売れ』という、有名な本があります。題名のとおりです。ドリルを買う人は、ドリルが欲しいわけでは、ありません。欲しいのは、壁に開く、穴のほうです。さらに言えば、その穴に棚をつけて、すっきり片づいた部屋、なのかもしれません。人は、モノではなく、その先にある暮らしを、買っています。
だから、読み手が「==したい」と言っているとき、一度、立ち止まって、その裏を、考えます。
- なぜ、それを、欲しいんだろう
- その先に、どんな暮らしを、思い描いているんだろう
- 本当に困っているのは、どこなんだろう
ここから見えてくるものが、相手の、本当の望みです。そこに、共感の入り口があります。
宣伝から入ると、読まれない
ところが、多くの人は、逆をやります。いきなり、宣伝から入るんです。
「==が、おすすめです」「機能が、充実しています」「実績も、豊富です」。こういう文章は、すでに買うと決めた人には、役に立ちます。でも、まだ悩んでいる人には、刺さりません。それどころか、急かされている気がして、うっとうしいんです。しかも、その手の説明は、たいてい、よそにも、同じことが書いてあります。ライバルと、横並び。読み手が、あなたを選ぶ理由が、ありません。
| 宣伝から入る(冷たい) | 共感から入る(届く) |
|---|---|
| 「片づけには、この収納グッズがおすすめ。容量も大きく、見た目もすっきりします」 | 「片づけても、三日で元どおり。自分は意志が弱い、と落ち込んでいませんか。じつは、続かないのは、意志のせいじゃないんです」 |
左は、商品の話から、始まります。右は、あなたの話から、始まります。続きを読みたくなるのは、どちらでしょうか。
共感から入る、というのは、こういうことです。まず、相手の悩みを、相手より先に、言葉にします。「分かってもらえた」と思ってもらえたら、心は、ひらきます。そのうえで、そっと、解決の道を、置きます。押しつけは、しません。共感が先、提案はあと。これだけで、同じ中身でも、届き方が、まるで変わります。
共感は、売るための技ではない
ひとつ、大事なことを、言っておきます。共感は、人を動かすための、テクニックでは、ありません。
「分かるふり」は、すぐ、見抜かれます。本当に相手の身になって、本当に分かったことだけが、伝わります。だから、自分が通っていない悩みを、分かったふうに書いては、いけません。書けるのは、自分が本当に感じたことだけ。でも、それが、いちばん、強いんです。
そして、共感されたあと、動くかどうかは、相手が決めることです。あなたは、分かったことを、正直に書きます。道を、そっと置きます。そこから先は、相手に、ゆだねます。それで、いいんです。本当に分かってもらえた人は、あなたの言葉を、信じます。売り込まなくても、です。
読み手が探しているのは、正しい指示では、ありません。自分のことを、分かってくれる人です。その一人に、なるんです。そのために要るのは、ただ一つ。相手が、本当は何を求めているのかを、握っていることです。
相手の望みは、自分の事業を「翻訳」すると、見えてくる
では、その「求めているもの」は、どうやって、見つけるのか。ひとつ、いい入り口があります。自分の事業を、相手の言葉に、翻訳してみることです。
ふだん、私たちは、自分のしていることを、こちらの言葉で、説明します。「ドリルを、売っています」。「研修を、やっています」。でも、その言葉のままでは、相手の望みは、見えてきません。
そこで、訳し直します。「ドリルを売る」を、相手の側から言い直すと、「壁に、穴を開けるお手伝い」。もう一歩進めれば、「欲しかった棚がついた、片づいた部屋を、お渡しする」。——さきほどの『ドリルを売るには穴を売れ』も、じつは、これでした。事業の、翻訳です。訳した先に出てくるものが、相手が、本当に求めているものです。
だから、あなたの事業も、一度、訳してみてください。あなたが「している」ことではなく、相手が「手に入れる」ことへ。そこに出てきた言葉が、そのまま、共感の入り口になります。
何に共感すればいいのか分からない——そう思ったら、まず、自分の事業を、相手の言葉に、翻訳することから、始めてみませんか。
出典・参考
- 佐藤義典『ドリルを売るには穴を売れ』(青春出版社)