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PDCAという形は、誰が作ったのか

2026 6/03
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人間を壊す信頼と実績のフレームワーク群
2026年6月3日
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PDCAは、デミングが作った。 日本では、そう信じられています。

ところが、これは、正確ではありません。 Plan・Do・Check・Act という、あの四段階の形を作ったのは、デミングではなく、日本人でした。 しかも、その日本人が誰なのか、名前は、わかっていません。

順を追って、見ていきます。

目次

はじまりは、デミングが示した四段階

一九五〇年、アメリカの統計学者W・エドワーズ・デミングが、日本科学技術連盟(日科技連)の招きで来日し、八日間のセミナーを行いました。

このとき、デミングが示したのは、師ウォルター・シューハートの考えを発展させた、四段階のサイクルでした。

英語カタカナ日本語
Designデザイン設計
Productionプロダクション生産
Salesセールス販売
Researchリサーチ研究

製品を設計し、作り、売り、その結果を研究して、また設計に戻る。品質を目的に、この四つを絶えず回す。後に、デミング・ホイールと呼ばれるものです。

ここで、確認しておきます。 デミングが示したのは、Plan・Do・Check・Act ではありません。設計・生産・販売・研究という、製品づくりの現場の言葉でした。Check という言葉は、どこにもありません。

日本が、作り替えた

では、あの Check のついた PDCA は、どこから来たのか。

カイゼンを世界に広めた経営学者、今井正明は、こう記しています。 日本の経営陣が、デミング・ホイールを、PDCAサイクルに作り替えた、と。

その対応は、こうなっていました。

デミングの段階日本のPDCA今井による説明
設計(Design)計画(Plan)製品設計は、経営の計画段階にあたる
生産(Production)実行(Do)設計したものを、作る
販売(Sales)評価(Check)販売の数字が、顧客の満足を確認する
研究(Research)改善(Act)苦情が出れば、次の計画に取り込む

製品づくりの具体的な言葉が、計画・実行・評価・改善という、どんな仕事にも当てはまる、抽象的な言葉に置き換わりました。

ここで、注目してほしいことがあります。 今井は、どの経営陣が作り替えたのか、その名前を、書いていません。 そして今に至るまで、この改変を「自分がやった」と名乗り出た人は、一人もいません。今井の説明に、異議を唱えた人もいません。

PDCAという、日本の組織を支配する四文字は、誰が作ったのかわからないまま、生まれたのです。

時代が、ゆっくりと広めた

PDCAが生まれたのは、一九五〇年代の初め。戦争が終わって、まだ数年です。 このころ、情報が広まる仕組みは、今とは比べものになりません。新聞、ラジオ、書籍はあっても、テレビは家庭に行き渡る前。インターネットも、ありません。

だから、PDCAが生まれたといっても、すぐに全国へ広まったわけではない、と考えるのが自然です。広がりは、品質管理という、限られた現場の中から始まりました。

その後の歩みを、並べてみます。

年出来事そのころの情報環境
1951年ごろ日本の経営陣がPDCAを作る戦後すぐ。情報の伝わる範囲は限られていた
1959年水野滋が体系化を進める高度経済成長の入り口
1985年石川馨が著書で定義し直す書籍を通じて、品質管理の世界に広まる
2005年品質管理検定(QC検定)が始まるパソコンが普及。情報が広く速く伝わる時代

一九八五年、品質管理の指導者・石川馨は、著書の中でPDCAを定義し直しました。計画の段に、目標と方法を組み立てることを加え、実行の段に、教育と訓練を含めた。

そして二〇〇五年に始まったQC検定は、二十年足らずで、累計申込者が百五十万人を超える制度になっています。その四級では、PDCAやQC七つ道具とともに、5Sや報連相といった、人の働き方の作法までが、一緒に教えられています。

ここからは、推測です。 こうした検定や教育の制度を通じて、PDCAは、一人ひとりの記憶を超えて、世代から世代へ受け継がれていったのではないか。情報が広く伝わる時代になるほど、その形は、深く根を張っていったのではないか。

確かなことは、言えません。 ただ、生まれた時点では一部にしかなかったものが、文献になり、検定になり、今では、知らない人を探すほうが難しい。その背後に、情報が伝わる仕組みの発達があったことは、想像に難くありません。

同じ単語を、違う意味で受け取っていた

ところで、デミング本人は、生涯、PDCAとは別のサイクルを主張していました。 PDSA──Plan・Do・Study・Act。三番目が、Check ではなく、Study(研究)です。

PDCAとPDSAの違いは、三番目だけ。CheckかStudyか、そこだけが違って、Plan・Do・Act は同じ──そう思われがちです。

けれど、違いは、もっと根の深いところにありました。 同じ英単語を、日本とデミングが、違う意味で受け取っていたのです。 それは、三番目だけではありません。四つの段、すべてに及んでいました。

段階日本の受け取りデミングの受け取り違いの大きさ(おそらく)
Pゴールを定め、その達成のために計画する予測を立て、それを確かめにいく大きい
D計画を、その通りに実行する予測を確かめるための、実験を行う小さめ
C / Sできたか・できないかを評価・確認する(Check)なぜそうなったかを研究する(Study)最も大きい
A計画とのずれを直し、改善する採用するか・捨てるか・もう一度回すかを選ぶ大きい

※「違いの大きさ」は、両者の意味を比べた、筆者の解釈です。

四つを、順に見ていきます。

いちばん違うのは、三番目(C と S)です。 日本の Check は、できたか・できなかったかを判定して、そこで一区切りつける。話を、閉じる方向です。 デミングの Study は、なぜそうなったかを調べて、次の問いを開く。話を、続ける方向です。 英語の check には「食い止める(hold back)」という意味がある、とデミングは指摘しました。だから彼は、その単語を避け、「研究する」を意味する Study を選んだ。 一方は閉じ、一方は開く。向きが、逆を向いています。

次に違うのは、A です。 日本の Act は、計画とのずれを直すこと。ずれていたら、もとの計画に戻す方向です。 デミングの Act は、学んだことを受けて、この先どうするかを選ぶこと。採用するか、捨てるか、もう一度回すか。次へ進む方向です。 直すのか、選ぶのか。ここも、向きが違います。

その次が、P です。 日本の Plan は、ゴールを定めて、その達成のために計画を立てる。最初に、目的地が決まっています。 デミングの Plan は、予測を立てて、それを確かめにいく。試して、外れたら、見直す。 (もっとも、私たちが旅行やデートのプランを立てるときのように、プランという言葉には、あれこれ予想して楽しむ面もあります。デミングの Plan は、その「予想する」面に、近いのかもしれません。)

いちばん近いのは、D です。 日本の Do は、計画を実行すること。デミングの Do は、予測を確かめる実験を行うこと。 どちらも「やってみる」という点では、重なっています。ただ、計画をなぞるのか、予測を試すのか、という目的の違いは、残っています。

つまり、CheckかStudyか、という見えやすい違いは、氷山の一角でした。その下で、PもDもAも、それぞれに、違う意味で受け取られていた。同じ英単語を出発点にしながら、日本とデミングは、最初から、違う世界を見ていたのです。

なぜ、理解が分かれたのか。源流をどうたどったのか、日本で独自に進化したのか、それとも、訳すなかで解釈が変わったのか。そこは、はっきりとは、わかりません。 ただ、同じ言葉でも、受け取る人によって、込められる意味は変わる。それが、国と言葉を越えれば、なおさらだった、ということなのかもしれません。

日本は、まっすぐ品質へ向かった

この単語の理解の違いが、サイクル全体の、向かう先を分けました。

日本は、Planを「決まった計画」と受け取り、三番目を「評価・確認」のCheckにしました。 この組み合わせは、サイクルを、まっすぐゴールへ向かわせます。決めた目標へ、ぶれずに、最短で。届いたかを確認し、届かなければ直す。

これは、品質管理に、よく合いました。 不良率を下げる。製品の質を、一定に保つ。答えのはっきりしたゴールへ、寄り道せず突き進む。日本の製造業が、品質で世界に認められた背景には、この一直線の強さがあったのでしょう。

PDCAは、間違っていたのではありません。 日本という現場の、品質という目的に、最適化されていったのだと思います。

ただ、最適化とは、ある目的に研ぎ澄ますこと。 そして、研ぎ澄ますとは、それ以外の可能性を、削ぎ落とすことでもあります。

デミングのもとの四段階は、予測を立て、試し、研究し、学ぶ、開かれたサイクルでした。回るたびに、新しい知識が生まれる。それを、品質へ向かう一直線に締め込んだとき、「学び続ける」という広がりは、見えにくくなっていきました。

最適化と、縛りは、同じことの裏表なのかもしれません。

生みの親は、認めなかった

日本でPDCAが定着していく一方で、生みの親に最も近いデミング本人は、この形を、認めていませんでした。

  • 一九九〇年、同僚への手紙:「必ずPDSAと呼びなさい。PDCAという、改悪ではなく」
  • 翌年、PDCAの図を見せられて:「あなたが示しているものは、デミング・サイクルではない。そのサイクルの出所を、私は知らない。PDCAがどうやって生まれたのかも、私は知らない」
  • 別の場で、日本のサイクルと自分のサイクルの関係を問われて:「互いに、何の関係もない」

出所を、知らない。 生みの親に最も近い人物が、そう言うほど、PDCAは、もとを離れて、ひとり歩きしていました。誰が作ったかもわからず、生みの親も認めず、それでも、形だけが、海を渡り、国に根を張った。

生みの親が、自分のものではない、と言い切った形を、私たちは、半世紀以上、使い続けています。

正しさではなく、使い道

ここで、立ち止まりたいことがあります。

日本のPDCAと、デミングのPDSA。どちらが正しいか、という話に、しないことです。 どちらにも、それぞれの力があります。あるのは、使い道の違いです。

向かう先得意なこと
日本のPDCA決めたゴールへ、まっすぐ答えのはっきりした目的。品質、効率
デミングのPDSA予測を広げ、学び続ける答えがまだ見えないもの。新しい知識づくり

ひとつの答えを求めるのか。 それとも、まだ見ぬものを、想像し、学び続けるのか。

どちらも、うまく使えば、良い方向へ導きます。 大切なのは、自分が今どちらを使っているのか、何のために使っているのかを、わかっていることだと思います。

形だけを受け継いで、込められた意味を確かめないまま使うと、その仕組みが本来どこへ向かうものなのか、見えなくなります。

そして、もし、この仕組みを──モノや工程のために作られた、一直線のサイクルを──人に向けたとき、何が起きるのか。 それは、また別の話になります。


関連する記事

  • デミングが本当に伝えたかったのは、「Check」ではなかった(デミングの考え方)
  • なぜ、私たちは「人」にまでPDCAを当ててしまうのか(人に向けるという発想)

参考文献

  • 今井正明 Kaizen: The Key to Japan’s Competitive Success, Random House, 1986.
  • 石川馨 What is Total Quality Control? The Japanese Way, Prentice-Hall, 1985.
  • Paul Lillrank and Noriaki Kano, Continuous Improvement: Quality Control Circles in Japanese Industry, 1989.
  • Ronald D. Moen and Clifford L. Norman, “Circling Back: Clearing Up Myths About the Deming Cycle,” Quality Progress, November 2010.
  • W. Edwards Deming, The New Economics, MIT Press, 1993.
  • 一般財団法人 日本規格協会「品質管理検定(QC検定)」
  • The W. Edwards Deming Institute(deming.org)

※ デミングの手紙の引用は、一九九〇年十一月十七日付のロナルド・モーエン宛書簡、および Peter B. Peterson, “Library of Congress archives: additional information about W. Edwards Deming,” Journal of Management History, Vol.3, No.2, 1997 に記録されたものに基づく。情報の浸透と時代背景に関する記述は、筆者の推測を含む。

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