大人は、応用編を欲しがります。
「ロジカルシンキング」「フレームワーク」「PASONA」「MECE」「SWOT分析」。研修で売られているのは、応用編ばかりです。なぜ、大人は応用編を欲しがるのか。一度、考えてみたいんです。
基礎を「もう知っている」と思い込んでいる
理由は、基礎を「もう知っている」と思い込んでいるからです。
しかし、本当は、基礎を知らない人ほど、基礎を「もう知っている」と思います。何が基礎なのかが、わからないから、すでに知っていると思い込む。
ソクラテスが言ったことです。無知の知。自分が知らないことを知っている人だけが、学べる。自分が知らないことに気づかない人は、応用編に飛びつきます。そして、応用編の単語すら、本当は理解できていない。
ロジカルシンキングを学んでも、そもそも「論理」とは何かを、自分の言葉で言えない。フレームワークを学んでも、「フレームに収まらない現実」をどう扱うかが、わからない。土台がないまま、応用編を学んでも、吸収率はゼロに近いんです。
研修ビジネスは、土台を売らない
大人の研修が応用編ばかりなのは、応用編の方が売りやすいからです。
「あなたにはこれが足りない」「これを学べば成果が出る」と言いやすい。逆に、土台がない人に「あなたには土台がありません」と言うのは、難しい。本人が「もう知っている」と思っているからです。
だから、研修ビジネスは、土台を売りません。応用編を売る。そして、応用編は、土台のない人には吸収されない。お金を払って、吸収されないものを学ぶ。この構図が、ずっと続いています。
土台とは、何か
では、土台とは何か。
学校が9年かけて育てているのが、それです。9年というのは、小学校と中学校、義務教育の9年のことです。
そして、その中身は、国そのものが変えました。文部科学省は2017年に学習指導要領を改め、小学校で2020年度、中学校で2021年度から全面実施しています。知識を暗記させる教育から、自分で考える教育へ。「思考力・判断力・表現力」を育てる方向へ、舵を切ったんです。
だから、今の子供たちは、その9年で「自分で問いを立てる力」「他者と議論する力」「自分の言葉で考える力」を積んでいます。これが、全ての応用編の前提になる力です。
知識とは、ただ覚えていることではありません。「○○の法則」「△△のフレームワーク」を覚えているだけの人は、知識を持っていない。「あの法則は、自分の言葉で言うと、こういうことだ」と説明できる人が、知識を持っています。
この、理解して自分の言葉にする力。これが土台です。土台があって初めて、応用編が吸収される。順番が、あるんです。
応用編に飛びつく前に
応用編を学ぶこと自体が、悪いわけではありません。土台のある人が応用編を学べば、ぐんと伸びます。
問題は、土台がないまま応用編に飛びつくことです。そして、土台がない人ほど、「自分には土台がある」と思い込んで、応用編に飛びつく。
だから、応用編に手を出す前に、一度、確かめてみてください。「論理とは何か」を、自分の言葉で言えるか。「フレームに収まらない現実」を、どう扱うか。これに詰まるなら、足りないのは応用ではなく、土台です。
そして、土台ができて、型を正しく使えるようになっても、もうひとつ落とし穴が残ります。型を、向ける先です。
たとえば、誰もが研修で習う型があります。PDCA、5W1H、なぜなぜ分析。どれも、もともとは書類やモノや仕組みのために作られた型で、人に向けて作られたものではありません。それを、よかれと思って部下に向けた瞬間、相手は少しずつ口を閉じていく。真面目に学んだ人ほど、止まれなくなる。型そのものが悪いのではなく、向ける先の問題です。このことは、別に一冊書きました。
→(書籍『学べば学ぶほど、』)
土台は、いくつになっても、訓練で育てられます。ただし、まず「自分には土台がないかもしれない」と気づくこと。そこからしか、始まりません。
出典
- OECD PISA 2022調査結果/国立教育政策研究所
- ソクラテス「無知の知」(『ソクラテスの弁明』)