AIを入れる。そのために、何十万円、何百万円もかけている会社があります。

「AI研修」「DX導入支援」「自社のソリューションをカスタマイズします」。名前はさまざまですが、やっていることの中心は、AIを会社に入れる手伝いです。

少し立ち止まって、考えてみてください。AIを入れるとは、何をすることでしょうか。

GoogleのGeminiは、無料です。Googleアカウントがあれば、gemini.google.comを開くだけで始まります。5分もかかりません。ChatGPTやClaudeにも、無料のプランがあります。アカウントを作って、ログインするだけです。AIを入れるところまでは、これで終わります。

「研修」や「コンサル」や「導入支援」は、本当にそこまで必要なのでしょうか。

1時間で済む話を、私は本にしました

私は、AIの体験会を1時間で終えるための台本を書きました。『とりあえず、これだけやっとけ ― 読むだけで即日AI導入台本』という本で、Amazonで公開しています。

中身は、台本そのものです。読み上げていけば、1時間で体験会が終わります。準備は5分、費用はかかりません。使うのは、無料のGeminiです。セキュリティの設定も、台本の中に入れました。「右上のアイコンをクリックして、設定を開いてください」「アクティビティをオフにしてください」と読み上げるだけで、入力した内容が学習に使われない設定まで終わります。

もう一つ、見落としやすいところがあります。ブラウザです。Microsoft EdgeやGoogle Chromeには、AIの機能が組み込まれていたり、「製品の改善に協力する」「使用状況の情報を送る」といった設定が用意されていたりします。AIのサイトの設定を変えても、ブラウザの側で情報を送る設定が入ったままでは、意味が半分になります。

会社の資料や、お客様や同僚の名前を、AIやブラウザに入れる人はいない。そう思うかもしれません。けれど、急いでいるときに、つい貼り付けてしまうのが人です。「入れないつもり」に頼るより、入れてしまっても送られないように、先に設定を整えておくほうが確かです。AIを使い始める前に、まずブラウザの設定を見直してください。

特別な知識は要りません。誰が読んでも、進行役が務まります。なぜ、これを書いたのか。会社の中に一人でも「AIを入れるのは1時間で終わる」と知っている人がいれば、外部に何百万円も払わずに済むからです。

世の中の研修やコンサルの相場

具体的な数字を出します。AI研修とDXコンサルの、価格の相場です。

  • オンライン学習型:月額1,000〜3,000円/人
  • セミナー・ワークショップ型:1回3,000〜3万円/人
  • 法人向けのカスタマイズ研修:1回10万〜50万円
  • AIコンサル型:月額30万〜100万円
  • DXコンサルティング:初期診断50〜200万円、戦略立案200〜500万円、実装支援300〜1,000万円。総額で500万〜2,000万円

無料で、5分で始まるAIのために、最大で2,000万円です。この差額は、何に払っているのでしょうか。

差額の正体は、依存です

「独自のAIソリューションを使ってみませんか」「弊社のノウハウで、御社のDXをサポートします」「クラウドサービスで、月額○○円から始められます」。こうした営業の言葉を、思い出してみてください。

使われている言葉を一つずつ見ていくと、中身が見えてきます。

「独自」という言葉。独自のものは、ほかのものと置き換えにくく、買ったあとに乗り換えにくくなります。「独自」は、買う側を縛る言葉にもなります。

「ノウハウを教えます」も、よく考えると不思議な言葉です。作った会社が作り方を知っているのは、当たり前のことです。その当たり前を「うちのノウハウ」と呼んで、高い値を付けている場合があります。

仕様は、売る側が決めます。買った時点で、買う側は、その仕様の中で使うことになります。しかも、いまは買い切りではなく、クラウドやサブスクで月額いくら、という形が増えました。払い続けている間は使え、払うのをやめると、データにも手が届かなくなることがあります。

言い換えると、「私の会社に、依存しませんか」という形です。依存を生む売り方は、こういう中身を持っています。

数字が示す、AI活用の現実

世界と比べて、日本はどうでしょうか。

マイクロソフトとLinkedInの国際調査では、日本のナレッジワーカーのAI業務活用率は32%で、調査した19か国の中で最下位でした。世界平均は75%で、日本はその半分にも届いていません。

もう一つ、気になる数字があります。AIの使い方について「十分なトレーニングを受けた」と感じている人は、世界平均で36%、日本は12%です(BCG「AI Trends Report 2025」)。

研修費は、4年続けて増えています(産労総合研究所、2024年度実績で1人36,036円)。それでも、AIのトレーニングを「十分受けた」と感じる人は、12%にとどまります。お金をかけ、研修も受けているのに、身についた実感がない。なぜでしょうか。

国の機関も、認めています

情報処理推進機構(IPA)が2023年に出したDX白書の題は、「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」です。国の機関が、「デジタルは進んだが、変革は進んでいない」と書いています。

PwCコンサルティングが、売上10億円以上の企業1,034社の管理職以上に聞いた「日本企業のDX推進実態調査2024」では、DXで「十分な成果が出ている」と答えた企業は9.2%でした。100社のうち、9社ほどです。

なぜ、多くの会社で、デジタルを入れても変革が起きないのか。ITmediaがDXの失敗事例を分析した記事では、失敗の原因の1位に「トップ・マネジメント層の理解不足、カルチャー」が挙がっています。原因は、ツールではなく、人と組織の文化にあります。

経済産業省も、「デジタル技術の活用は目的ではなく、あくまで手段である」と示しています。それでも、「DXソリューション」として売られているものの多くは、ツールの導入です。ここに、ねじれがあります。

AIは、ただの入力欄です

そもそも、AIとは何でしょうか。複雑なシステムでも、難しい技術でもありません。文字を入れる欄と、答えが返ってくる欄があるだけです。

Google検索で「駅周辺 美味しい 焼肉」「確定申告 やり方」「肩こり 解消」と入れたことはありませんか。入れた言葉に対して、結果が返ってきます。生成AIも、つくりは同じです。検索窓に言葉を入れたことがある人なら、AIを使うのに、特別な準備は要りません。

「難しそうなソフトを入れませんか」という提案の中には、簡単なものを、難しく見せているものもあります。そこに気づくかどうかが、最初の分かれ道です。

本質は、あまり説明されません

ソフトを売る会社は、いろいろなことを教えてくれます。入力の仕方、使い方、メリット、費用対効果、成功事例。けれど、一つだけ、あまり教えてくれないことがあります。「これは、そもそも何なのか」です。

AIとは何か、なぜ動くのか、何ができて、何ができないのか。この本質を説明してしまうと、売りにくくなるからだと、私は見ています。

「AIはただの入力欄」と伝えれば、高いコンサルは要らなくなります。だから、表面の使い方だけを教え、難しそうに見せる。誰でも使える無料のツールを、「うちのノウハウ」として有料で売る。そうなると、売っているのはDXではなく、D(デジタル)だけです。

ツールを買っただけでは、変革は起きません。道具を手に入れても、使いこなすには、使う人自身が変わる必要があります。ツールを売る側からは、この話はあまり出てきません。

使いこなす人は、依存しない

誤解のないように書いておきます。私は「DXのソフトを買うな」「AIのコンサルを雇うな」と言いたいのではありません。

使いこなす人なら、依存にはなりません。仕様に閉じ込められず、自分なりの使い方を見つけ、必要なら別のソフトに乗り換える判断もします。その人にとって、ソフトは道具です。道具に振り回されず、道具を選ぶのは自分です。依存が生まれるのは、使いこなせないときです。

これは、AIとまったく同じ構造です。AIを使いこなす人は、AIに考えさせません。自分で考えて、AIに整えてもらいます。使いこなせない人は、AIに考えさせて、出てきたものをそのまま送ります。分かれ目は、使いこなすか、依存するかです。

10年単位で、同じことが繰り返されている

10年前は「IT研修」「IT導入支援」「うちのITソリューションを使いませんか」。5年前は「DX研修」「DX導入支援」。いまは「AI研修」「AI導入支援」。名前は変わっても、中身はほとんど同じです。「うちのソフトを入れませんか」「使い方を教えます」「月額いくらです」。

名前を変えながら、同じ売り方が10年以上続いています。そして買う側は、そのたびに新しい名前に飛びつき、新しい月額の契約を結んできました。その積み重ねで、誰が得をしてきたのか。一度、考えてみる価値があります。

本当のDXの順番は、こうです

ツールを買う前に、考えることがあります。

  1. 自社が、本当に何を変えたいか
  2. それを変えるために、何が必要か
  3. 必要な道具として、何を選ぶか

この順番で考えてから、ツールを選びます。

ところが、多くの会社では、順番が逆になっています。「DXをしないと」と焦って、まずツールを買い、何を変えるかは後から考える。これでは、変わりにくいのも当然です。

AIを入れたあと、会社の中でどう使うか、どんなルールを作るかは、その会社が自分で考えることです。規模も、業種も、お客様も、組織の文化も、会社ごとに違います。どの会社にも当てはまるルールは、ありません。「ルールも決めてください」と頼めば、そこから依存が始まります。AIを入れるところは、1時間で済みます。その先は、自分たちの頭で考えるところです。

DXを考える順番と、逆になっている順番

私自身の立ち位置

ここまで読んで、「では、お前は何者だ」と思った方もいるかもしれません。正直に書きます。

私は、AIにも、業者にも、誰にも依存しない人を育てることを、自分の仕事にしたいと考えています。そのための講座を作り、運営しています。

世の中で売れているのは、依存させる形のサービスです。「あなたの会社のDXを、私たちが解決します」「うちに任せてください」「成果を保証します」。私は、それをやりません。「私に依存させない」「最後には私からも卒業できる人を育てる」と決めているので、売りにくいのは承知のうえです。それでも、続けています。

同じ形に乗れば、月額の契約も取れるでしょう。けれど、そうした時点で、私がずっと疑問を持ってきた依存の形と、同じになります。だから、乗りません。

効果は、約束できません

もう一つ、正直に書きます。私の講座を受ければ成果が出ます、とは言えません。会社によって、出発点が違うからです。

もともと力のある人がいる会社と、そうでない会社とでは、同じことをしても、起きることが変わります。私が渡すのは、力のある人が、それをさらに伸ばすきっかけです。「誰でも成果が出ます」「ROI300%」「導入後3か月で売上アップ」とうたう広告もありますが、私は書きません。書けば、うそになるからです。

最後に、ひとつだけ

「うちの独自ソフトを使ってみませんか」「弊社のDXソリューションで、御社をサポートします」「AI導入支援、初回無料相談承ります」。こうした営業が来たら、少しだけ立ち止まってみてください。

その言葉の奥から、「うちの会社に、依存しませんか」と聞こえてこないか。耳を澄ませてみてください。

依存しない道を選ぶなら、まず自分で考えることです。自分の会社が、本当に何を変えたいのか。それが見えてから、道具を選ぶ。道具の選び方は、誰かに教えてもらうものではありません。AIを入れるだけなら、1時間で足ります。その先を、自分たちでやれるかどうか。問われているのは、そこだと考えています。

出典

  • PwCコンサルティング「日本企業のDX推進実態調査2024(速報版)」(2024年5月実施、有効回答1,034名、売上10億円以上の企業の管理職以上)
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023:進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」
  • 経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」(2024年9月改訂)
  • マイクロソフト×LinkedIn「Work Trend Index」(国際ナレッジワーカー調査、19か国比較)
  • BCG「AI Trends Report 2025」(世界調査)
  • ITmedia「低すぎる日本企業のDX成功率 DX迷子に陥る3つの要因」
  • 産労総合研究所「2025年度(第49回)教育研修費用の実態調査」(2025年10月発表)
  • 本多公則「とりあえず、これだけやっとけ ― 読むだけで即日AI導入台本」(Amazon Kindle出版)
  • AI研修・DXコンサル市場の価格相場(複数業界調査による集計)

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