現場でいちばん仕事ができる人が、新人の教育を任される。よくあることです。
ところがその人が教えると、うまくいかないことがあります。「見ていれば分かる」「なんでできないのか分からない」。本人は、いい加減に教えているわけではないでしょう。自分ができすぎて、できない人がどこで止まるのかが見えないのです。
人ができるようになるまでの、5つの段階
人が何かを身につけるまでには、次の段階があります。

- 知っている:聞いたことがある、読んだことがある
- わかっている:なぜそうするのかを、説明されれば分かる
- やっている:実際にやってみている。まだ間違える
- できている:迷わず、一人でできる
- 人に教えている:人ができるようになるまで、付き添う
現場でいちばんできる人は、4段目にいます。そして、4段目と5段目のあいだに、いちばん大きな段差があります。
「できている」と「教えている」は、別の力
できている人は、体が覚えています。どこで力を入れ、どこで確認するかを考えずにやっているはずです。考えずにやっているから、言葉になっていません。
教えるには、その考えずにやっている所を言葉に戻す必要があります。自分がどこで判断しているのか。なぜそこで止まるのか。それを言葉にしたとき、はじめて相手に渡る形になります。

まさのり君
でも、自分でやったほうが早いですよ。教えている時間で、終わってしまいます
もちろん、その日の仕事だけを見れば自分でやったほうが早いでしょう。しかし自分でやり続けるかぎり、その仕事はその人がいないと回りません。その人が休んだ日や異動した日に、仕事が止まります。
働き方の四つの枠で見ると
ここで、一つの図を借ります。ロバート・キヨサキの本『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』にある、働き方を四つに分けた図です。
この図は、ネットワークビジネスの勧誘で使われることがあります。「雇われていたら、一生お金持ちになれない。だから右側に来よう」という誘い方です。ここで借りるのは、収入の増やし方としてではありません。仕事を自分で回すか、人に任せて回すか、という見方としてだけです。

左側は、自分が動いて成果を出す働き方です。右側は、人に任せ、仕組みを作って成果を出す働き方を指します。
職場で教える立場になるとは、仕事のやり方を、左側から右側へ少しずつ移すことです。肩書きが変わることとは別の話で、自分がいなくても同じ仕事が回るようにすることを指します。
4段目から5段目へ移るために
- 自分のやり方を、書き出す:いつもやっている手順を、新人が読んでも分かる言葉で書く。書けない所が、言葉になっていない所
- なぜそうするかを、添える:手順だけでなく、そうする理由を書く。理由が分かると、手順にない場面でも相手が判断する
- やってもらって、見る:書いたものを渡してやってもらい、止まった所を見る。止まった所が、まだ言葉が足りない所
- 相手に説明し直してもらう:相手が自分の言葉で説明したら、5段目に一歩近づいている
教えることで、教える側の理解も深まります。言葉にしようとして、自分でも分かっていなかった所に気づくからです。
教える立場になったときに使う型
- 6 説明し直しシート:分かったつもりでも、人に説明すると言葉が出てこないとき
- 6-1 ブルームの分類:「分かった」の中身が、人によって違うとき
- 7 一人しか知らない仕事の洗い出し:あの人が休むと、仕事が止まるとき
- 7-2 SECIモデル:ベテランのやり方が、言葉になっていないとき
初めて部下を持ったとき、係長や課長になったときに求められることは、人生の岐路のページに、場面ごとにまとめています。
まとめ
自分でできることと、人に教えることは、別の段階です。できている人ほど、自分がどこで判断しているかが言葉になっていません。やり方を書き出し、理由を添え、やってもらって止まった所を見る。そうして仕事を、自分で回す形から、人に任せて回す形へ移していきます。
次に新人に仕事を教えるときは、「見ていれば分かる」の代わりに、自分がどこで判断しているかを一つ言葉にして渡してください。
