「うちの会社は、研修に力を入れています」

そう話す経営者の方に、何人もお会いしてきました。

新人研修、管理職研修、DX研修、AI研修。日本企業の従業員1人あたりの教育研修費用は、2024年度実績で36,036円。4年連続で増加しています(産労総合研究所「2025年度教育研修費用の実態調査」、2025年10月発表)。

お金は、ちゃんとかけている。

それで、人は育っているんでしょうか。

ちょっと、立ち止まって考えてみたいんです。


研修の効果、ほとんど測定されていないんですよ

ご存じでしょうか。

研修の効果測定で世界的に使われている、カークパトリックの4段階評価モデルというのがあります。

レベル1:受講者の満足度 レベル2:知識・スキルの理解度 レベル3:現場での行動変容 レベル4:組織の業績向上

この4段階で、研修が本当に効果を出したか測定する、というモデルです。

日本企業が実際にどこまで測定しているかというと、レベル1(満足度)は研修の77.2%で測定されている、というデータがあります(雇用・能力開発機構による調査)。

つまり、4分の3以上の研修は、研修終了直後のアンケートで「満足しましたか」「分かりやすかったですか」を聞いている。

でも、レベル3の行動変容、レベル4の業績向上を測定している研修は、ごくわずか。

HR総研の調査によれば、管理職研修を運営する企業のうち、「実施効果の測定ができていない」と答えた企業が38%。これが、課題の第1位でした。

研修を提供している側自身が、「効果が見えていない」と認めている。

満足度アンケートで「良かった」と書いてもらえれば、研修は成功扱い。

でも、その人が研修の後、実際に行動が変わったか、業績が上がったかは、見ていない。

これが、日本の研修の実態です。

カークパトリックの4段階評価モデルと、日本の研修で測られている段階

ひょっとしたら、こうかもしれません

研修で人が育ったのではない。

もともと育つ素地のある人が、研修をきっかけに伸びただけ。

そう考えると、いろんなことが説明できます。

「あの研修を受けて、彼はぐっと成長した」と言われる人がいます。

でも、その人がもともとどんな人だったか、入社時の素地がどうだったか、外からは見えません。

「研修のおかげで成果が出ました」と発表されても、その人がもともと優秀だった可能性は、否定できないんですよ。

研修の効果と、その人の地力。

レベル3もレベル4も測定していないなら、この2つを切り分けることが、そもそもできません。


数字を一つ、見てください

ここで、もう一つ、決定的な数字があります。

リクルートワークス研究所の「第42回 ワークス大卒求人倍率調査」(2026年卒)による、企業の従業員規模別の大卒求人倍率です。

企業規模求人倍率
5,000人以上(大企業)0.42倍
1,000〜4,999人1.05倍
300〜999人1.43倍
300人未満(中小企業)8.98倍

5,000人以上の大企業の求人倍率は、0.42倍。

これは、約2〜3人の学生に対して、1社の求人。企業から見れば、応募してきた人の中から、じっくり選べる状態。

300人未満の中小企業の求人倍率は、8.98倍。

これは、1人の学生に対して、約9社が取り合っている状態。企業から見れば、応募してきた人を、選ぶ余地がほぼない。

格差は、20倍以上です。


学生は、まず人気企業を狙います

「マイナビ・日経 2026年卒大学生就職企業人気ランキング」を見ると、上位はソニーグループ(4年連続1位)、味の素、サントリー、トヨタ、任天堂、オリエンタルランド、東宝、集英社、KADOKAWA、講談社…大手ばかりです。

トップ100に、小規模な中小企業はほぼゼロ。

学生は、まずトップを狙います。落ちた人が、次の選択肢に流れる。さらに落ちた人が、もっと下に流れる。

そうやって、入ってくる人が決まる頃には、もう企業規模ごとに、入ってくる人の質が、構造的に分かれている。

「研修で人が育つ」と言う前に、そもそも、入ってくる人が違うんですよ。


企業は、選別の連続です

面接の段階で、選べる人の質と分母が、企業によって全く違います。

大企業に来る人と、中小企業に来る人。同じ研修を受けても、出発点が違う。

大企業の研修で「成果が出ました」と発表されても、それは、もともと地力のある人を集めた結果かもしれません。研修の効果なのか、入ってきた人の素地の差なのか、外からは分かりません。

中小企業が、同じ研修プログラムを買って、同じように実施しても、同じ結果は出ないかもしれない。

「うちの会社の研修は効果が低い」のではなく、「うちに来てくれる人と、大企業に行く人で、出発点が違う」だけ、なのかもしれない。

これは、見えないことです。だから、断定はできません。

でも、ひょっとしたら、こうかもしれません。

研修は、人を育てる装置ではなく、もともと育つ人を選別する装置として、機能している。

育つ人だけが、育って見える。育たない人は、3年以内に辞めていく(新規大卒就職者の3年以内離職率34.9%、厚生労働省2024年10月公表)。

そうやって、企業の中には「育った人」だけが残っていく。

これが、「研修で人は育つ」という幻想の、正体かもしれません。


でも、ここで終わらない話があります

ここまでだと、中小企業は「もう負け」みたいに聞こえてしまいます。

そうじゃない話を、書きたいんですよ。


発信できている小規模の会社は、違うんです

中小企業が、一律に「弱い側」かというと、そうではありません。

マーケティングをしっかりしている会社は、規模が小さくても、サイトとSNSが機能しています。

社長の趣味と仕事を組み合わせて、独自の魅力で発信している会社。

「うちは、こういう志を持っている。こういう仲間と一緒に働きたい」と、自分の言葉で語っている会社。

そういう会社には、「応募者」ではなく、「志を共にする仲間」が集まります。

求人倍率8.98倍の中で、こういう会社は、競争の外側にいます。お金で人を奪い合うのではなく、志で人を選ぶ。集まる人の質が、最初から違う。


ホームページも、SNSも、「あるだけ」では意味がない

ただ、誤解しないでほしいんですが、ホームページを持っているだけ、SNSをやっているだけでは、こうはなりません。

これは、DXのソフトを入れただけでは会社が変わらないのと、同じ構造です。

「ある」のと「機能している」のは、違うんですよ。

世の中の中小企業のホームページを見てください。

会社概要、事業内容、代表挨拶、お問い合わせ。テンプレートのような構成で、業者が作ったままの状態で放置されている。

SNSも、たまに「年末年始のお知らせ」「新年あけましておめでとうございます」を投稿するだけ。

これでは、誰の心にも届きません。


意味を見出せる発信ができるかどうか

読み手が「この会社は、自分と志を共にできる」と感じる発信。

これがあるから、人が選ぶ。

求人倍率の数字を超えて、仲間が集まる仕組みができる。

ここまでは、わりと分かる話だと思うんです。「発信が大事」というのは、いろんなマーケティング本に書いてあります。

でも、ここからが、深い話です。


その発信は、どこから生まれるのか

「いい発信をしよう」と思っても、できない人がほとんどです。

なぜか。

人は、何かを「好き」と感じる時、明確に言語化できていないからです。「何となく、ここが好き」というレベルで止まっている。

人それぞれ、見ているものが違います。

同じ景色を見ても、見ているところが違う。同じ言葉を使っても、その言葉に込めている意味が違う。

自分が何を見ているか、自分は何が好きか、自分はどんな意味で言葉を使っているか。

これを、自分で言葉にできるかどうか。

ここで、発信の質が決まります。


同じものに、自分の心が入るかどうか

同じテンプレートを使っても、自分の心が入っていれば、別物の発信になります。

逆に、テンプレートをそのまま使う人、AIで書いた文章をそのまま投稿する人。これは、「あるだけ」の発信。誰の心にも届きません。

「何となく好き」を、言葉にできる人が、発信を変えられます。


ここで、もう一段深い話があります

今までの話は、「もともと素地のある人を、どう集めるか」「もともと素地のある人を、どう活かすか」の話でした。

研修で素地のある人を選別する、というのが、世間の研修・採用がやっていること。

発信で素地のある人を集める、というのが、発信できている会社がやっていること。

そのどちらでもなく、もう一段深いところに、別の選択肢があります。


素地そのものを、変える

「素地は、生まれつき決まっている」と思われがちです。「もう大人だから、変えられない」と思っている人も多い。

でも、素地は、生まれつきのものではないんですよ。

素地は、知識と経験から、生まれるものです。

ここでいう「知識」は、ただ覚えていることではありません。「分かった気」になっていることでもない。

知識とは、自分で理解して、自分の言葉で言えること。

これが、本当の知識です。

「○○の法則」「△△のフレームワーク」を、覚えているだけの人。これは、知識を持っていません。

「○○の法則とは、自分の言葉で言うと、こういうことだ」と説明できる人。この人は、知識を持っています。

そして、この力——理解して、自分の言葉にする力——は、訓練で育てられます。


経験は、後から

世間では、「経験を積めば、考える力がつく」と言われています。

だから、若手を現場に放り込む。たくさん経験させる。失敗からも学ばせる。

でも、考え方を訓練していない人が経験を積んでも、その経験から学べないんですよ。

同じ経験をしても、何を見るか、何を感じるか、何を言葉にするかで、得られるものが全く違う。考え方の訓練ができていない人は、経験を「ただ通り過ぎる」だけで終わります。

順番が、逆なんです。

先に、考え方を訓練する。

そうすれば、同じ経験をしても、得られるものが変わる。経験が、素地を育てる栄養になる。

考え方の訓練ができていれば、その後の経験で、素地はぐんぐん育っていく。


どう変わっていくか、それは本人次第です

ただし、約束はできません。

考え方の訓練をしたら、必ず変わります、とは言えない。

人それぞれ、変わり方は違います。何を見出すかも、人それぞれ。

でも、変わるための方法は、あります。


子供たちは、長年かけて、これから学校で学んでいきます

ここで、思い出してほしいんです。

学校教育は、2020年から変わりました。子供たちは、自分で問いを立て、議論し、考える訓練を、9年間続けます。

9年もかけて、考え方を訓練していく。だから、考えることが、身体に染み込む。

子供たちには、学校という仕組みが、ちゃんと用意されています。

しかし、大人は、どうでしょうか。

学校は、もう終わっています。仕組みは、ありません。

毎日の業務に追われている。家庭もある。考え方の訓練に、9年もかける時間は、ない。

だから、大人の方が、本当はずっと、難しいんですよ。


それでも、変える方法はあります

「9年かける時間はない」と言って、諦めるか。

「9年かけられないなら、もっと意識的に、もっと能動的にやればいい」と思うか。

ここが、分かれ道です。

子供のように、学校という仕組みに守られて、自然に身につけることはできない。だから、自分で動くしかない。

「誰かに教えてもらわないと動けない」という体質を、自分で破る人だけが、素地を変えられます。


「自己認識対話進化メソッド」

私は、自分の仕事を、こう呼んでいます。

自己を認識する。自分が何を見ているか、何を感じているか、どんな意味で言葉を使っているか、それを認識する。

対話を通じて、感性のままだったものを、言葉にする。一人では言葉にできなかったものを、対話の中で、形にしていく。

そして、進化する。素地が変わる。見えるものが変わる。発信が変わる。仕事が変わる。人生が、変わっていく。

何を認識するか、どう対話するか、どこへ進化するかは、本人が決めることです。

私は、認識と対話と進化の方法を、渡すだけ。


結果は、約束できません

これは、はっきり書いておきます。

私の講座を受けたら成果が出ます、とは言えません。

人それぞれ、変わり方が違うからです。何を見出すかは、その人次第。

世間のコンサルが「誰でも成果出ます」「ROI300%」「3ヶ月で人生が変わる」と謳っている中で、私はそれを言いません。

言えないんですよ。嘘になるから。


でも、人のせいにしないでくださいね

最後に、ひとつだけ、書いておきたいことがあります。

ここまでの話を読んで、「会社が悪い」「研修業者が悪い」「世間が悪い」と思った方が、いるかもしれません。

確かに、私はこれまでの記事で、世間の構造を批判してきました。

でも、人のせいにしないでくださいね。

いくら世の中が変わってきたと言って、自分のことは、自分のことです。

世間の研修が機能していないことを批判するのは、簡単です。

会社が新しい財産を潰していることを嘆くのも、簡単です。

DX業者が依存させようとしてくることに、文句を言うのも、簡単です。

でも、何かにケチをつけるのは、やめましょう。

気づいたなら、これからです。


あなたは、どうしますか

子供たちは、学校で長年かけて、これから学んでいきます。

しかし、大人は?

学校はもう、ありません。仕組みは、ありません。

それでも、素地は、変えられます。

知識を、自分の言葉にする力。これを育てれば、素地は変わる。

そして、変えるのは、あなた自身です。

私が渡せるのは、方法だけ。

ただし、結果は約束できません。

でも、ひょっとしたら、これが、本当の意味で人が育つ道筋なのかもしれません。


出典

  • 産労総合研究所「2025年度(第49回)教育研修費用の実態調査」(2025年10月発表)
  • 雇用・能力開発機構(JEED)「研修評価と効果測定の一般的な考え方と進め方」(カークパトリック4段階モデル日米比較データを含む)
  • HR総研「人材育成『管理職研修』に関するアンケート」(管理職研修の運営課題)
  • リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」(2025年4月発表)
  • マイナビ・日本経済新聞社「マイナビ・日経 2026年卒大学生就職企業人気ランキング」
  • 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」(2024年10月25日公表)
  • カークパトリックの4段階評価モデル(Donald L. Kirkpatrick, 1959)

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