朝礼で新しい手順の話をした。全員がうなずいていた。ところが翌週、手順を変えた理由を覚えている人は、ほとんどいない。

人が集まっている場で話せば、多くの人に届く。そう思って話します。しかし、聞いている人が多いことと届いていることは、別のことです。

人通りが多くても、店は覚えてもらえない

毎日通る駅前の道を思い浮かべてください。その通りにどんな店が並んでいるか、端から順に言えるでしょうか。

たいていの人は、いくつかしか言えません。言えるのは、入ったことのある店か、ちょうど探していたものを売っている店です。毎日目の前を通っていても、興味のない店は目に入っていないのと同じなのです。

話にも、同じことが起きています。その場にいても、自分に関係があると思えない話は耳に入りません。

同じ説明でも、相手によって知りたいことが違う

たとえば、来月から伝票の書き方が変わるとします。同じ話でも、聞く人によって知りたいことは違います。

  • 入ったばかりの人:前のやり方を知らない。知りたいのは、来月から何をどう書けばいいか
  • 長くいる人:前のやり方が体に染みついている。知りたいのは、どこが変わったかと、なぜ変えたか。理由が分からないと、前のやり方に戻ってしまう
  • 上の人:知りたいのは、変えると何が良くなるかと、どれくらいの時間とお金がかかるか

全員に同じ説明をすると、どの人にも一部しか合いません。入ったばかりの人には理由の話が長く、長くいる人には書き方の説明がくどい。上の人には、知りたい数字が出てきません。

役割が違えば、使う言葉も違います。上の人がふだん使う言葉は、入ったばかりの人には通じないことがあるでしょう。たとえば、「欄が多くて、どこに何を書くか迷う」という入ったばかりの人の困りごとは、「事務の効率化」という上の人の言葉からは見えてきません。同じ日本語でも、相手の立場で通じる言葉は変わるのです。

話す前に、一人に決める

そこで話す前に、誰に向けた話かを決めます。「みんな」ではなく、名前の浮かぶ一人か、一つの立場です。決めたら、その人について次の3つを考えてください。

  • いま何を知っているか:前のやり方を知っているか。こちらの言葉が通じるか
  • 何に困っているか:その話を聞いて、困りごとが一つ減るか
  • 聞いたあと、何をしてほしいか:覚えてほしいのか、やり方を変えてほしいのか、決めてほしいのか

一人に決めると、話す順番が決まります。入ったばかりの人に向けた話なら書き方から、上の人に向けた話なら良くなることと数字から入ります。

まさのり君

でも、朝礼は全員が聞いています。一人に決めたら、ほかの人には届かなくなりませんか

もちろん、朝礼や研修のようにいろいろな人が同じ場にいることもあります。そのときは、話の最初に誰に向けた話かを言ってください。

今日の話は、今月入った人に向けた話です。長くいる人は、自分が教えるときの言い方として聞いてください。

こう言われると、聞く側は自分がどの立場で聞けばいいかが分かります。関係ないと思って聞き流していた人も、別の聞き方に切り替えるでしょう。

相手が違うなら、話を分けます。上の人には、朝礼とは別に数字を入れた紙を一枚渡す。全員に一度で済ませようとするより、相手ごとに短く話すほうが、伝わりやすくなります。

相手を見立てるときに使う型

まとめ

人が集まる場で話しても、自分に関係があると思えない話は耳に入りません。話す前に、誰に向けた話かを一人に決める。その人が何を知っていて、何に困っていて、聞いたあと何をしてほしいか。そこから話す順番と言葉が決まります。

次に話す前に、聞いてほしい一人の顔を思い浮かべてみてください。

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