新しい道具を入れた。使い方の説明会も開いた。それなのに、現場ではほとんど使われていない。

「便利なのは分かるけど、今のやり方で困っていないから」。そう返されたことが、あるかもしれません。

人が動くには、二つの気持ちがそろう必要があります。「必要だ」と「欲しい」です。

ニーズは「必要」、ウォンツは「欲しい」

マーケティングでは、この二つをニーズとウォンツと呼びます。

  • ニーズ:何かが足りないと感じている状態。「喉が渇いた」「お腹がすいた」
  • ウォンツ:それを満たす、具体的なもの。「コーラが飲みたい」「あの店のラーメンが食べたい」

喉が渇いているだけなら、水でもお茶でもいいはずです。それでもコーラを選ぶ人は、渇きを満たす手段としてコーラが欲しいのです。

喉が渇いたという一つの必要から、水やお茶やコーラという欲しいものに分かれる図

売る側が見ている商品は、ウォンツの一つにすぎません。その奥には、いつもニーズがあります。

本人も、自分の「必要」に気づいていない

やっかいなのは、ニーズが本人にも見えていないことが多い点です。

肩がこる人は「肩こりを治したい」とは思っていても、「椅子が合っていない」とは思っていないかもしれません。座り心地のいい椅子に一度座って、はじめて「足りなかったのはこれだった」と気づく。必要は、使ってみたときに分かることがあります。

相手は、四つの状態に分かれる

「必要」と「欲しい」の二つを軸にすると、相手は四つの状態に分かれます。

必要と欲しいの二つの軸で分けた四つの状態
  • 今すぐ:必要も感じ、欲しいものも決まっている。説明すれば、すぐに動く
  • 迷っている:必要は感じているが、どれにするか決めていない。比べる材料を探している
  • そのうち:興味はあるが、今でなくていいと思っている。必要がまだ見えていない
  • まだ先:必要も、欲しい気持ちも、まだない

多くの人は、「今すぐ」にはいません。アメリカの営業コンサルタントのチェット・ホームズは、著書『The Ultimate Sales Machine』にこう書いています。ある商品を今すぐ買おうとしている人は市場の3%ほどで、前向きに考えている人は7%ほど。残りの約9割は、まだ考えていないか興味がない人です。

今すぐ買う人3%と前向きな人7%、残り約9割を示す買い手のピラミッド

「今すぐ」の人だけを相手にすると、その少ない人をほかの店と取り合うことになります。

状態ごとに、渡すものを変える

  • 今すぐの人には:迷わず選べるように、値段や手順をはっきり示す
  • 迷っている人には:ほかと比べる材料を渡す。違いと、合う人・合わない人
  • そのうちの人には:なぜ今なのかが分かる情報を渡す。得られることと、避けられる損
  • まだ先の人には:売り込まない。役に立つ情報だけを渡して、覚えておいてもらう

同じ説明を全員にしても、届くのは一部の人だけです。

必要を、つくり出さない

ここで、一つ線を引いておきます。もとからある必要に気づいてもらうことと、ありもしない必要をつくり出すことは別のものです。

事実でない不安をあおって「今買わないと大変なことになる」と迫るのは、相手を操ることです。一時は動いても、あとで「乗せられた」と気づかれて信頼を失うでしょう。

気づいてもらうのは、もとからあった必要です。椅子の例でいえば、肩こりは本人の中にはじめからありました。

職場で考えると

この四つの状態は、職場で人に教えるときにもそのまま当てはまります。新しいやり方を説明するとき、聞いている人はこう分かれています。

  • 今すぐ:今のやり方に困っていて、新しいやり方を待っていた人
  • 迷っている:変えたほうがいいとは思うが、どれがいいか決めかねている人
  • そのうち:興味はあるが、今のやり方で困っていない人
  • まだ先:変える理由が、まだ見えていない人

まさのり君

説明はしたんです。でも、使ってくれるのは一部の人だけで

説明会を一度開いて終わりにすると、動くのは「今すぐ」の人だけです。迷っている人には、今のやり方と比べた違いを。そのうちの人には、なぜ今変えるのかという目的を。まだ先の人には、まず一度やってみせる。状態に合わせて、渡すものを変えてください。

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まとめ

人が動くには、「必要だ」と「欲しい」の二つがそろう必要があります。相手はこの二つの組み合わせで四つの状態に分かれ、多くの人は「今すぐ」にいません。状態ごとに渡すものを変え、ありもしない必要はつくり出さない。

次に何かを説明するときは、聞く人が四つのどこにいるかを先に考えてから話してください。

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